原作はマリー・前村・ウルタードとエクトル・ソラーレス・前村の共著「革命の侍〜チェ•ゲバラの下で戦った日系2世フレディ前村の生涯」(長崎出版、2009年、2017年再刊)
冒頭のシーンは印象的だ。キューバ革命から半年が経過した頃キューバ政府使節団として来日したエルネスト・チェ・ゲバラは広島平和記念館や平和記念公園、原爆病院を訪問する。そこでゲバラが抱いた思いが全編を伏線のように流れている。
1962年、祖国のために医者になることを希望し、キューバのハバナ大学の医学部を目指してやってきたフレディ前村はまもなくキューバ危機に遭遇する。現在に至るまでの核問題の最初の危機的な状況だった。
ボリビア社会の貧困を身近に体験したことから、医学者を目指したが、1964年に祖国ボリビアで軍事クーデターが起き、フレディは反政府運動に関わりだし、折しもキューバ政府の募集する革命支援隊に応募する。そこで与えられた兵士名が「エルネスト」だった。キューバを離れ、故国ボリビアの反政府ゲリラ活動に身を投じて、25年の生涯を終える。
フレディ前村が生きた人生は激動そのものだったが、阪本順治監督は医学を目指す青年の思いを丁寧に辿り、日常のエピソードの表現にも心を砕く。解剖室の授業風景などが作品の襞を刻む。描くのは静かな日常だが、その日常性の実現の陰に激烈な戦いが潜んでいることを感じさせ、前村が接するゲバラやカストロたちの振る舞いも不思議な感興を起こす。
チェ・ゲバラと行動を共にした日系人がいたという事実をもとに、青春映画として成功したのは主人公を演じたオダギリジョーの存在が大きい。澄んだまなざしと穏やかな物腰から発する存在感が見事だった。