かねてからキューバ音楽に傾倒していたライ・クーダーは日頃から友人のヴィム・ヴェンダースにその素晴らしさを話しており、アルバム「ブエナ・ビスタ〜」のラフ・ミックスを聞かせたところ、ヴィムは忽ち魅了され、数ヶ月間テープを聴き続け、ぜひ同行をしたいと願い出たという。
ドキュメンタリー映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1999年)は世界的にヒットした。このドキュメンタリー映画は監督のヴィム・ヴェンダースの個人的な思いが随所に込められながらも、冷静的確な演出とキューバ人音楽家たちの熱く、たぎりたつような内面の発露が思いがけず相乗効果を産み、忘れがたい感動を与えてくれたのであった。
そして18年後の彼らの音楽と生活と意見に密着したのが「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ・アディオス」である。今回はバンドメンバーたちの声の中に、彼らの音楽的ルーツに迫り、先祖の奴隷としての歴史にも触れる。楽天的で、情熱にあふれる彼らの歌声が苛烈な歴史的な辛酸を舐めてきた先祖の思いが積み重ねられながら、染み出してきたものだろう。
オマーラ・ポルトゥオンドの80歳を優に越しながらの存在感とその色香、イブライム・フェレールとの掛け合いは人生の哀感をにじませる絶唱だった。1950年代に活躍した彼らも徐々に人生の幕を引きつつ。残るものは歌い、奏し続ける。監督はルーシー・ウォーカー。ヴィム・ヴェンダース製作総指揮。
編集技術的にも優れたドキュメンタリーである。
全編、溢れんばかりのキューバ音楽に日頃の己の心持ちに刺激を受けながら、改めて、肉体化された音楽の凄みを思い知る。後天的に、教育やら、練習やら、懸命に修得されたそれなりの優等生的音楽的・芸術的成果なんぞは吹っ飛ぶような、地の底から迸るような感情の露出。その表出には、生きるとは?人生とは?民族とは?を根底から問い返す視座が広がっている。