「ラストトーキョー」(NHKBS1)〜異色のコロナ禍の新宿歌舞伎町人間模様

まず興味をそそられるのが、番組制作サイドのNHKディレクター(柚木映絵)が頻繁に画面に登場し、全編にわたる主人公である、母親(柚木佳恵)への徹底した取材を3年半に渡り記録し続けた手法についてだった。

新宿の再開発計画により、歌舞伎町の姿も変わり果てるだろうと確信したディレクターは歌舞伎町の街の姿を記録しようと考え、自分の母親の姿を通して、実相を記録し始めたのが3年半前。

「歌舞伎町俳句一家・屍派」など様々なユニークな人々をフォローするが、2020年に入るとコロナによる歌舞伎町の住民に対する偏見・差別などに悩み、思索する人たちへの取材が比重をしめてくる。

この番組の要諦は、ディレクターの母親の存在感と滲み出る無頼の魅力である。新宿歌舞伎町で、4軒の麻雀店を経営して来た凄腕と生きる心情がおりに触れ、娘のカメラに向けて吐露されるのだが、取材風に吐露することもあり、あまりにズケズケ己の領域に踏み込んでくる娘に度々発せられる「ヤメテー!もうー!」。そして父の「ヤメなさい!」の言葉もなんのそので、取材を重ねていく。27歳で借金7700万して、麻雀店4軒を経営して来た母は己のことを「新宿の鼠」だと自称する。70歳を越えながら、そのヘアースタイル、歩き方までもあたりを払う雰囲気を醸し出す。だが、やり手だった母の店もコロナの影響で次第に苦境に陥っていく。何度か店を畳む覚悟をしながら、その度に生き抜く力を発揮するエネルギーはどこから湧いてくるのか?

ディレクターは母以外にも、コロナ禍の中で敢えて餃子屋を開店する男や、札幌から出てきた若者二人がフレアーバーテンダーを目指して修行に励む姿などもフォローする。

こうした中から、歌舞伎町で生きる決意をした人々がそれなりに連体感を抱きながら、必死に生き抜く姿が浮かび上がってくる。政府や東京都の繰り出す規制や宣言に文字通り翻弄されながら、それでも必死に対応する。それぞれの働く仲間としての連体感がうっすらと滲み上がってくる。こうしてディレクターの母親への見方や、母親から見た娘の仕事への視線、そして何より新宿歌舞伎町の街としての存在感・実在感が次第に価値あるものに変容していくことを暗示する。

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