「パッション・フラメンコ」〜サラ・バラスの超絶技巧

  • 現代フラメンコ界に屹立するフラメンコダンサー、サラ・バラスのドキュメンタリーである。フラメンコの世界的な広がり、特に日本についても興味深い事実が描かれており、芸能としてフラメンコが内包する力の源泉についても思いが及ぶ作品に仕上がっている。
    フラメンコ界の歴史を辿れば幾多の巨匠たちの苦闘の歴史が現代フラメンコの隆盛をもたらした。サラ・バラスはこれらの巨匠たちのなかから、パコ・デ・ルシア、 アントニオ・ガデス、 カルメン・アマジャ、 カマロン・デ・ラ・イスラ、 エンリケ・モレンケ、 モライート・チーコ の6人のマエストロへのオマージュ作品「ボセス フラメンコ組曲」の初演までの3週間の稽古風景と世界ツァー (2014〜5)に密着した映像記録となっている。
    パコ・デ・ルシアについては、彼の長男が記録した 「パコ・デ・ルシア 「灼熱のギタリスト」に彼の並外れたフラメンコ・ギターに対するこだわりや超絶的な技法が鮮明に描かれた傑作が残されている。
    冒頭の稽古風景から彼女のフラメンコへの思いが噴出するように語られる。従来のルールを超えていく生き方、革新性、リスクに立ち向かう姿勢などは保守的な層からは批判されるが、自らの思いを貫いていく。彼女の強靭なカリスマ性は率いる舞踊団との見事なアンサンブルを生み、彼女の踊るフラメンコダンスには、そのサバテアード(つま先と踵をふみ鳴らす超絶的な技)が圧倒的な迫真力を生み出す。舞台をふみ鳴らす切れ味の効いたタップが休止した瞬間の深い静寂と次の狂騒のサバテアードの絶妙的な対比が鮮やかだ。
    心の内側に溜め込んだ様々な起伏に富んだ感情を一気に爆発させる衝撃性、そこに至るまでに体に蓄積させるかのような手足の動き、苦悩と歓喜の表情・・人間の始原的な情感まで漂わす実在感の強さが彼女のダンスの独自性だろう。
    印象的だったのはニューヨーク公演でローリング・ストーンズのサックス奏者のティム・リースを迎えてのセッションで、フラメンコとサキソフォンの即興的な融合が見事だったこと。そしてサラが新人時代に東京に住みながら、タブラオ「エル・フラメンコ」で踊っていたことだった。
    蛇足ながら上記6人のマエストロの記録映像が少しづつでも挿入されていれば、より感銘深いものになっただろう。